秘密保持契約書中におけるいわゆる「例外規定(除外規定)」の意味の 英語圏と日本における齟齬とその問題点

秘密保持契約書中におけるいわゆる「例外規定(除外規定)」の意味の

英語圏と日本における齟齬とその問題点

 

2024年5月31日

渡邉 明彦

 

I. 問題の所在

 

本稿で取り上げる秘密保持契約書における「例外規定[1](除外規定[2])」とは、次のようなものである(特に下線を施した箇所(下線、筆者)なお、(1) から (5) の項目の順を時系列順に変更している)。[3]

 

本契約において、秘密情報とは、文書・口頭・電磁的記録及びその他の方法によることを問わず、甲又は乙より相手方に開示された営業上又は技術上の情報及び本契約の存在・内容をいう。

 

但し、以下各号のいずれかに該当する場合には、秘密情報に該当しない。
(1)
開示者から開示された時点で、既に公知であった情報
(2)
開示者から開示された時点で、既に受領者が保有していた情報
(3)
開示者から開示された後に、受領者の責任によらず公知となった情報
(4)
開示者から開示された後に、受領者が正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
(5)
開示者から開示された秘密情報によらず、受領者が独自に開発した情報

 

上に引用した記事では、この規定の趣旨は次のように解説されている(下線、筆者)。

 

秘密情報を定義したとしても、既に公知となっている情報や開示後に受領者の責任によらずに公知となった情報などに関しては、受領者以外の者も既に知っている情報となります。そのため、厳格な管理の対象とし続けることは、情報受領者に対して不要な負担を課すことになります。この負担を回避するため、ひな形のような除外項目が一般的に規定されます。[4]

 

この「例外規定(除外規定)」については、その意味をまったく解説しないもの、あるいは「定義規定において、秘密情報の例外規定が設けられるのが一般であり」等としか説明されないことが多い中で、[5] その存在意義について解説するものは、むしろ良心的であると言えよう。また、それらの解説中には、上記の「不要な負担」のほか、「形式上は秘密情報に該当しても、実質的に見て保護に値しない情報を保護の対象から外す必要があります」(下線、筆者)というような解説がなされている。[6]

 

このように、わが国では、いわゆる「例外規定(除外規定)」の意義を、「受領した秘密情報から公知情報等を「外す」規定」だとする見解が流布されているが(以下、「受領秘密情報除外説」と呼ぶことにする)、英語圏では、こられ「例外規定(除外規定)」の趣旨は、

 

「誰でもが自由に利用できる公知情報、受領者が既に取得していて利用している情報、開示された秘密情報によることなく、それらと無関係に[7]受領者が開発した情報の利用を、秘密保持契約書を締結したことによって受領者が妨げられるのは不合理であり、秘密保持契約書における「例外規定(除外規定)」は、これら情報の利用等を、受領者が妨げられない旨を述べたものである。」[8]

 

という説明がなされている。つまり、上記の公知情報等の利用は、当該秘密保持契約書の(秘密保持義務の)適用の埒外(らち外)にあるとしているのである(以下、この見解を「らち外利用説」と呼ぶことにしよう)。[9] ただし、わが国において、このような上記の「利用を妨げない」という見解を明示的に述べているものは、少ないようである。[10]

 

さて、この「受領秘密情報除外説」と「らち外利用説」の違いは、一種の言葉の綾(あや)、説明方法の違いにとどまるとも感じられるかもしれない。なあるほど「受領秘密情報除外説」によれば、受領した秘密情報中の「公知情報」(正確には、「公知情報と同一内容の情報」であろうが)等については、秘密保持義務が解除され、秘密保持義務を負わなくなる一方で、「らち外利用説」によれば、公知情報と同一内容の情報が含まれていても、引き続き秘密保持義務は存続する等の違いがでてくる。[11]  

 

また、「受領秘密情報除外説」の論者がこの趣旨を明言している訳ではないが、受領した秘密情報中の「公知情報」(正確には、「公知情報と同一内容の情報」であろうが)等については秘密保持義務が解除され秘密保持義務を負わなくなることから、受領者は除外されるこれらの情報を(受領した秘密情報であるにもかかわらず)利用できることになるということが言外に含まれていると思われる。これい反して、「らち外利用説」では、受領した秘密情報とは別の開示者以外からの情報源の公知情報等を受領者は利用できるが、受領した秘密情報について依然として秘密保持義務を引き続き負うことになる。[12]

 

このように、同じ[13]「例外規定(除外規定)」について、英語版と日本語版で、意味が異なるという弊害も生じることになるから、日本語版と英語版の秘密保持契約書の両方を実務で取り扱っている関係者にとっては、悩ましい事態が生ずることになるであろう。

 

私は、このように、日本語版と英語版とで齟齬・相反する見解の生ずる根本原因は、わが国において秘密情報を「秘密な内容の情報」とする思い込み(私が「内容説」と呼んでいるもの)にあると思っているが、 [14] 本稿では、その点も簡単に触れておきたい。

 

本稿の目的は、日本で一般に流布している(と思われる) [15]上述の「受領秘密情報除外説」が誤りであることを論証することにある。

 

 

II. 例外規定(除外規定)の翻訳的由来

 

日本語の「例外規定(除外規定)」と、英語版の秘密保持契約書における「例外規定(除外規定)」との理解が齟齬、背反していると述べたが、「日本語と英語版の秘密保持契約を同列に論じられるのか」という疑問をもつ方があるかもしれないので、念のため、日本語の秘密保持契約書の由来が、英語版の秘密保持契約書に淵源をもつことの例証を、以下に紹介しておこう。[16]

 

 

 

 

1.                   Confidential Information” means any information owned or controlled by a party and disclosed by such party to the other party, either directly or indirectly, in writing, orally or by inspection of tangible objects (including without limitation documents, financial, business and customer information, designs, intellectual property, technology, methodology, code, software, prototypes, samples, and equipment), which is designated as “Confidential,” “Proprietary” or some similar designation.  Information communicated orally shall be considered Confidential Information if such information is confirmed in writing as being Confidential Information within a reasonable time after the initial disclosure. Notwithstanding the foregoing, Confidential Information shall also include any information which a reasonable person would believe to be confidential.   Confidential Information shall not, however, include any information which (i) was publicly known and made generally available in the public domain prior to the time of disclosure by the disclosing party; (ii) becomes publicly known and made generally available after disclosure by the disclosing party to the receiving party through no action or inaction of the receiving party; (iii) is already in the possession of the receiving party at the time of disclosure by the disclosing party as shown by the receiving party’s files and records immediately prior to the time of disclosure; (iv) is obtained by the receiving party from a third party without a breach of such third party’s obligations of confidentiality; (v) is independently developed by the receiving party without use of or reference to the disclosing party’s Confidential Information, as shown by documents and other competent evidence in the receiving party’s possession; or (vi) is required by law to be disclosed by the receiving party, provided that the receiving party gives the disclosing party prompt written notice of such requirement prior to such disclosure and assistance in obtaining an order protecting the information from public disclosure.

1. 「秘密情報」とは、一当事者が所有又は支配し、直接又は間接的に、書面、口頭又は有形物を閲覧することにより、他方当事者に開示する情報(書類、財務・事業及び顧客情報、設計図、知的財産、技術、手法、コード、ソフトウェア、プロトタイプ、サンプル及び機器を含むが、これらに限らない)のうち、「秘密」、「専有」その他類似の指定がなされているものをいう。なお、口頭で伝達された情報は、当初の開示後合理的時間内に秘密情報である旨を書面で確認された場合に秘密情報とみなされるものとする。上記にかかわらず、秘密情報には、合理的判断を行う者であれば、秘密であると見做すであろう情報も含まれるものとする。但し、秘密情報には、(i) 開示当事者による開示の前にすでに公知であり一般に入手可能であった情報、(ii) 開示当事者から受領当事者への開示後、受領当事者の作為又は不作為によらずに公知となり一般に入手可能となった情報、(iii) 開示当事者による開示の時点で既に受領当事者が保有していた情報であって、当該開示直前の受領当事者の記録上、当該保有を示せるもの、(iv) 受領当事者が、第三者から取得した情報であって、当該第三者が負う秘密保持義務に違反していないもの、(v) 開示当事者の秘密情報を使用又は参照することなく受領当事者が独自に開発した情報であって、受領当事者が保有する書類及びその他の有効な証拠によって当該独自の開発性を示せるもの、又は(vi) 受領当事者が法律により開示することを義務付けられた情報(但し、受領当事者は、当該開示を行う前に開示当事者に対し書面をもって速やかに当該義務について通知し当該情報を公開から保護する命令を得るべく協力することを条件とする)は、含まれないものとする。

 

上記は英語の原文とその日本語訳である。このように、日本語の秘密保持契約書は、英語版の秘密保持契約書[17] の直訳調から出発し、その日本語訳が、しだいにいわば土着化 (domesticate) していったものである。

 

上記のとおり、「例外規定(除外規定)」の意義は、英語版の方に不備があるとか、日本固有の必要性があるとかの事情が存在しない限り、英語版と日本語版とで異なる必要はないと思われるが、実際には、その意義は日本では乖離している。そして、問題なのは、乖離していることが多くの場合意識されていないこと、そしてそのことから、日本ではさらに問題が引き起こされていることにある。

 

 

III. 英語圏における「例外規定(除外規定)」の意味の理解

 

英語版の秘密保持契約書では、Confidential Information shall not include any information which ...のような形で「例外条項(除外条項)」が定められていることが多いが、この規定の意味はいかなるものであろうか。「含まれない」だけでは、意味が明らかではない。

 

英文の秘密保持契約書中の「例外規定(除外規定)」の意義については、あまりにも「国語(英語)的」に意味が自明なためか、これを正面から解説する文献が乏しい。その中で、われわれの目的に役立つ文献から、その意味を探っていこう。

 

a) 「公知」について

 

既に紹介したとおり、わが国で流布している「受領秘密情報除外説」によれば、「既に公知となっている情報や開示後に受領者の責任によらずに公知となった情報などに関しては、受領者以外の者も既に知っている情報となります。」(下線、筆者)と、「知っている」あるいは「知られている」ことを根拠に、「厳格な管理の対象とし続けることは、情報受領者に対して不要な負担を課す」ことになることから、秘密情報から除外されるとされている。

 

では、果たして「公知である(公知となった)」とは、「知っている(知られている)」という認識の問題であろうか。この問題について、英語版の「公知」に該当する箇所の文言(表現)について検討している文献があり、参考になる。

 

Ken Adams, Adams on Contract Drafting - The Public-Information Exception to the Definition of Confidential Information[18] では、

 

秘密情報の定義に対する公開情報 (Public-Information) の例外

 

情報の区分け方法

 

私が遭遇した例外規定の記載の仕方には、次のような様々なやりかたがある。

 

1.  public(公開の)

2.  publicly available(公に利用可能な)

3.  available to the public(公衆が利用可能な)

4.  publicly known(一般に知られている)

5.  widely available to the public(公衆が広く利用可能な)

6.  generally available to the public(公衆一般が利用可能な)

7.  widely available in the widget industry(一定の業界で広く利用可能な)

8.  in the public domain(パブリックドメインの)

 

第一の選択肢「public (公開の)」について「ブラック法学辞典」では、「万人が利用、共有または享受できるよう公開または公に利用に供されていること」と説明されている。では、インターネット上で公開することは、情報を利用可能にすることになるであろうか。インターネット接続を許していることは、そうとも解しうるかもしれないが、「情報を利用に供する (make the information available)」と同義ではない。「利用に供する」とは、情報にアクセス可能にすることだけでなく、他者にその情報の存在を知らせ、入手可能であることを知らせることでなければならない。

 

選択肢2「available for all(万人が利用可能な)」については、検討を省略する。秘密保持契約書で問題になる「(文字どおりの)万人」ではなく、特定の「コミュニティ」あるいは関連する「業界」だということを注意するにとどめる。

 

「ブラック法学辞典」が示唆しているとおり、「public(公開の)」という言葉は、「公に利用可能な」という意味が含意されているので、選択肢3の「available to the public(公衆が利用可能な)」のような available(利用可能な)という言葉は余計である。

選択肢4は「publicly know(一般に知られている)」という点を論じているが、対象となる情報に利用可能性より過大な要求を突き付けている。われわれが知っているのは、利用可能な情報の一部でしかなく、情報のその僅かな一部から対象となる情報にたどり着けることが現実である。全貌が「知られている(知っている)」情報に限定するは、不合理である。

 

選択肢5と6は、情報が公になっていることを前提とすると、「広く」とか「一般に」が余分である。しかし、この点を強調したいなら、特定のコミュニティとか業界を意識しておくべきである。

 

選択肢7を、その点で推奨する。

 

選択肢8(public domain(パブリックドメイン))は、著作権に関する用語で適切でない。」

 

このように、わが国で「公知の(公知となった)」という文言について取り扱われる中心的な課題は、この論文によれば、英語圏では「利用、共有または享受できるよう公開または公に利用に供されていること」にあるとされており、その他の「広く(あるいは一般に)知られている」との要件は、必ずしも必要でない(広く知られている情報以外はもちろん、「(あるコミュニティあるいは業界で)利用、共有または享受できる」情報も、秘密保持義務の例外-つまり、自由に利用できる-ことななっている(「除外される」の意味が、がこのように理解されている)。

 

b) 「既知の」

 

「既知の」、「第三者から入手する」、「受領情報とは無関係に(独立して)開発された」の要件については、Jere M. Webb “A Practitioner’s Guide to Confidentiality Agreements” [19]があるので、同論文に沿ってその意味内容を確認しておこう。

 

「受領者が既に知っている営業秘密や公になっていない情報を除外しておかないと、受領者は自らの営業秘密や情報を利用できなくなる。

 

例えば、製造業者は、精査することなく、ある製品の「新規の製造方法」について秘密保持契約書で「不使用」そして「非開示」義務に同意することがありうる。その後、その製造方法は公知でなかったが、自社、そして競業他社が知っていたことが明らかになった。この規定は、そのような場合に備えるものである。たしかに、受領者は、ある種の情報は秘密保持契約書の適用外であるとする、秘密情報の一覧表を秘密保持契約書に添付しておくこともできる。開示者側の懸念としては、果たして受領者が本当に「既に知ってした」かに疑念を抱くことがあるであろうが、その点は、この情報を、秘密保持契約書締結前に書面化しておいた証拠で証明することを求める一項を設ければいい。

 

c) 「第三者から取得する」

 

ある種の秘密情報は公開情報とまでいかなくとも、少数のグループ内で周知のものであることがある。この周知の情報を、秘密保持契約の開示者以外の、その情報を保有していた人から取得した場合には、受領者がその情報の使用を妨げられる謂われはない。これは、「公知となった」情報、「既知の情報」、そして「受領情報とは無関係に(独立して)開発された」の場合と同じ理由で、受領者は、秘密保持契約を締結したことを理由に、上記の場合に自らの地位が不利になることを欲しないからである。第三者、ことに競業他社が利用できる情報を、受領者が、将来、利用できなくなるのは不合理だからである。

d) 受領情報とは無関係に(独立して)開発された

 

上記の理由と同じ理由が、この場合にも当てはまるが、書面による証明が求められる場合でもある。また、「受領情報とは無関係に(独立して)開発された」事実、つまり受領した情報に依拠することなく開発した事実の証明責任を受領者に負わせるべきであろう(書証の日付だけでは不十分)。」

 

e) Jere M. Webbの推奨する例外(除外)規定

 

上記にかかわらず、(a) 公知であったもしくは公知となった情報、(b) 受領者が既に知っていた情報であって、本秘密保持契約書の締結前に書面化しておいた情報、(c) 本秘密保持契約書の締結後に第三者から正当に取得した情報、または (d) 受領者が独立して開発した情報については、保護もしくは秘密として保持する義務を負わず [20]また使用することを妨げられない。

(下線、筆者)

 

以上、検討してきたことからも明かなように、「例外規定(除外規定)」は、秘密保持契約書の締結によっても、いかなる情報が「利用、共有または享受」を受領者が妨げられないかを取り扱うものと、英語圏では考えられている。

 

2. 秘密情報の定義 「秘密情報」とは、いかなる形式又は媒体であると問わず、以下のいずれかの情報であって(受領当事者(「本件受領者」)が本契約書にもとづき作成することを認められるかかる情報のあらゆる複写/複製も含む)、(a) 本件会社もしくはその関連会社又はそれらそれぞれの顧客、サプライヤーもしくはその他のビジネスパートナーにとって固有又は秘密であるあらゆる情報(あらゆる形式又は媒体のRIM製品もしくは開発、その試験もしくは商業利用に組み込まれるもしくは関連する情報(これに限らない)を含む)、(b) その開示の前もしくは開示の時点で秘密であると明示に特定される情報、又は、ワイヤレス通信業界において秘密であると一般にみなされるであろう情報、及び (c) 本件開示者に直接もしくは間接を問わず開示された情報、又は、本件受領者が本件開示者もしくは本件開示者のために閲覧を別途認められる情報。なお、明確を期して付記すれば、特許権に関連する協議に関連しては、本件開示者が時間及び/又は金銭を費やした結果であると本件開示者が指定した先行技術は「秘密情報」とみなされるものとし、本契約書に明示に規定する場合にのみ、これを使用、複製又は開示することができる。

 

2. Description of Confidential Information Confidential Information” is any information in whatever form or medium (and includes any copies of such information that receiving Party (Recipient”) is authorized to make hereunder) that is: (a) proprietary or confidential to Discloser or its affiliated companies or to their respective customers, suppliers or other business partners including, without limitation, information that is embedded in, or related to a  RIM product or the development, testing or commercial exploitation thereof, in whatever form or media; (b) is either specifically identified as confidential prior to or at the time of its disclosure or would generally be considered confidential in the wireless communications industry; and (c) directly or indirectly disclosed or to which the Recipient is otherwise provided access by Discloser or on Discloser’s behalf For the purposes of clarification, in relation to any discussions relating to patent rights, any prior art identified by Discloser as a result of Discloser expending time and/or money shall constitute Confidential Information and may be used, reproduced or disclosed only as specifically provided herein.

8. 適用除外  (a) 本件開示者から受領する前に本件受領者が合法的に占有していたこと、又は (b) 公知のものであることももしくは本件受領者の過失によらずして公知のものとなったこと、又は (c) 本件受領者が独自に開発もしくは発見したことを本件受領者が証明できる情報は、本契約書にもとづく本件秘密情報とはみなされないものとする。

 

1.                    8. Exclusions  Information that Recipient can establish: (a) was lawfully in Recipient’s possession before receipt from Discloser; or (b) is or becomes a matter of public knowledge through no fault of Recipient; or (c) was independently developed or discovered by Recipient, shall not be considered Confidential Information under this Agreement.

 

 

 

IV. 日本語化された秘密保持契約書における

例外規定(除外規定)の意味の変質とその原因及び弊害

 

以上検討してきたように、

 

「本契約において、秘密情報とは、文書・口頭・電磁的記録及びその他の方法によることを問わず、甲又は乙より相手方に開示された営業上又は技術上の情報及び本契約の存在・内容をいう。

 

但し、以下各号のいずれかに該当する場合には、秘密情報に該当しない。
(1)
開示者から開示された時点で、既に公知であった情報
(2)
開示者から開示された時点で、既に受領者が保有していた情報
(3)
開示者から開示された後に、受領者の責任によらず公知となった情報
(4)
開示者から開示された後に、受領者が正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
(5)
開示者から開示された秘密情報によらず、受領者が独自に開発した情報」

 

という「例外規定(除外規定)」の意味は、

 

(a) 既に公知となっている情報や開示後に受領者の責任によらずに公知となった情報などは、受領者以外の者も既に知っている情報となり、厳格な管理の対象とし続けることは情報受領者に対して不要な負担を課すことになります。この負担を回避するため、ひな形のような除外項目が一般的に規定される。形式上は秘密情報に該当しても、実質的に見て保護に値しない情報を保護の対象から外すためです。」

 

という見解と、

 

(b) 「誰でもが自由に利用できる公知情報、受領者が既に取得していて利用している情報、開示された秘密情報によることなく、それらと無関係に[21]受領者が開発した情報の利用を、秘密保持契約書を締結したことによって受領者が妨げられるのは不合理であり、秘密保持契約書における「例外規定(除外規定)」は、これら情報の利用等を、受領者が妨げられない旨を述べたものである。」

 

という、まったく異なる見解がある。(a) は日本国内で流布している見解であり、(b)は、英語圏における英文秘密保持契約書の「例外規定(除外規定)」の解釈である。

 

秘密保持契約書については「ひな形」が公表されているが、[22]そのような「ひな形」を利用するにしても、これらの「例外規定(除外規定)」については、相手方にその条項をどのように理解しているかを予め尋ねておく必要があるという、奇妙な現象が起こっている。この問題は、統一的な「ひな形」を利用することによって解決される性質のものではない。

 

さらに、上記の(a)の見解は、論理的に成り立ち得ないし、さまざまな弊害をもたらしている。この点を以下で検討していく。

 

1. 「秘密保持契約書における秘密情報」は、秘密な内容の情報でない(あるいは、より正確には、あることを要しない)

 

David V. Radack, Understanding Confidentiality Agreements [23] も言うとおり、

 

The type of information that can be included under the umbrella of confidential information is virtually unlimited. Any information that flows between the parties can be considered confidential—data, know-how, prototypes, engineering drawings, computer software, test results, tools, systems, and specifications. This list is certainly not exhaustive but does illustrate the breadth of items that can be deemed confidential.

 

秘密情報の範囲に下におさめられうる情報の種類は、事実上無制限である。当社間でやりとりされるいかなる情報でも-データ、ノウハウ、プロトタイプ、作業図面、コンピュータソフトウェア、試験結果、ツール、システムそして仕様書まで-秘密情報とみなしうる。上述に列記したものは網羅的ではなく、秘密情報とみなしうる事項の幅広さを例示しているものでもない。一般に広く知られることになるという意味での「公知となる」、「公知であった」ことにより、「秘密情報」から除外されることはない。

 

つまり、当事者が「秘密情報」をみなすことに合意する情報、問題となっている秘密保持契約書が適用される情報が「秘密情報」なのである。「秘密な内容」の情報であることは、必要条件でなく、

 

さらに、Gowling WLGは、[24]

 

Confidential information is information that is not publicly available, may or may not have commercial value, is communicated in confidence, and is reasonably protected.

 

秘密情報とは公表されていない情報のことであり、事業上の価値が有ることも無いこともあるが、守秘されるものとして伝達され、合理的に保護される。

 

と述べている。

 

わが国おけるような、「秘密保持契約書における秘密情報」を、「営業秘密 (trade secret) と同視するのは誤りであるのは当然として、[25] 「秘密情報」という用語が、一つの財産(権)として捉えて使用する場合と、[26]「秘密保持契約書における秘密情報」という場合の「秘密情報」とで異なっていることに注意すべきである。

 

2.「形式上は秘密情報に該当しても、実質的に見て保護に値しない情報を保護の対象から外す」という発想は成り立たない.

 

「公知であった情報」と秘密情報の定義との関係については、岡本 幹輝 ()「実例 英文秘密保持契約」(1988/7/1)で、次のような疑問が投げかけられた。その趣旨は、おおむね、

 

「「(秘密保持契約書の締結時点で(既に)公知であった情報」は、そもそも当初から秘密ではなかったはずであり、「秘密情報」から除かれるというのは、理解に苦しむ。」

 

というものであった。われわれは、「例外規定(除外規定)」の意図するところは、「公知であった情報の利用を、秘密保持契約書の締結によって妨げられることはない」ことだということを確認しているので、「外す」という発想自体が成り立たないことを理解している。しかし、現在流布している「受領秘密情報除外説」の発想によれば、受領者は、

 

「秘密保持契約書の締結後に公知となったことを理由として、秘密保持義務の存続を否認できる。」という主張ができることになる。

 

これは、秘密保持契約書を締結して、大企業に対して秘密情報を提供した中小企業が不利となる虞のある規定だと指摘されているが、「受領秘密情報除外説」が成り立ちえないことを、当事者間で事前に確認しておけば、このような事態は避けられる。

 

3.「例外規定(除外規定)」の5つの項目は、統一的に理解できるか。

 

「例外規定(除外規定)」の5項目が、その存在根拠を統一的に理解できるかという点についても、それら5項目に該当する情報を「秘密情報」から「外す」規定だと解釈する「受領秘密情報除外説」の立場からは、「公知であった」、「公知となった」情報には秘密性がないから「外される」グループであるのに対して、「既に取得していた」、「第三者から取得した」、「独立して開発した」情報については、秘密性の喪失ではなく、「形式上は秘密情報に該当しても、実質的に見て保護に値しない」情報のグループだとして統一性を否定する。そして、これら5項目の規定を、いわばバラバラにして規定することが推奨され、日本語の秘密保持契約書のなかには、5項目に関する規定が、契約書のあちこちに散在する体裁となっているものがある。

 

これに対して、本稿で「らち外利用説」と読んでいる立場からは、5項目すべては秘密保持契約書の適用外の、いわば利用を妨げられない「外部」の情報であるという統一性があり、また、秘密保持契約書が適用されるのが、開示者が受領者に提供するする「秘密情報」として定義(あるいは記述・画定)された情報なのであり、当該情報が「公知であった」、「公知となった」情報である場合には公表者、「保有していた」場合には受領者、「第三者から取得する」場合はその第三者、「独立して開発した」の場合は受領者が、それぞれ情報源となっているというように、「開示者以外を情報源とする情報」という共通性があるという。

 

したがって、「例外規定(除外規定)」5項目をバラバラに規定する秘密保持契約書を使用している相手方には、「5項目の情報が、秘密情報から外される」という理解をしていないことを確認する必要がある。

 

4.「秘密保持契約書における秘密情報が秘密の内容の情報である」という観念の一人歩き

 

例えば、秘密保持契約書の秘密保持条項に、紛争予防のための手続き条項を盛り込むという提案がある。

 

「3 秘密とすべき情報を他の当事者から受け取った当事者は,受け取った側の秘密管理者の所属・氏名・連絡先を明らかにするものとする。受け取った側の当該秘密管理者は,その情報が第1項第1号又は第2号に該当するものであると判断する場合には,その情報を受け取った日から起算して2週間以内にその旨を相手方の当該秘密管理者に通知するものとする。また,第3号又は第4号に該当するものであることとなったと判断する場合には,該当することとなった日から起算して2週間以内にその旨を相手方の当該秘密管理者に通知するものとする。これらの通知は,単に当該秘密管理者の個人の責任ではなく,本契約を締結する各当事者の責任において行うものとする。

4 前項の通知を受け取った当事者は,その通知内容に異議ある場合は,その通知を受け取った日から起算して2週間以内に異議を唱える。異議ある場合には,当該当事者同士が話し合いにより解決する。」

【参考】① 他の当事者から知得する以前にすでに所有していたもの

② 他の当事者から知得する以前にすでに公知のもの

③ 他の当事者から知得した後に,自己の責めによらない事由により公知とされたもの

正当な権限を有する第三者から秘密保持の義務を伴わずに知得したもの

 

この提案の趣旨を筆者は、

 

これらの手続き条項を設けることにより,少なくとも当事者双方の社内文書管理体制を一定レベルに引き上げる効果が期待できる。また,何が秘密で何が秘密でないかを厳密に管理して,秘密でないものを後生大事に秘密にしないですむという効果が期待できる。」(下線、筆者)

 

としている。秘密保持契約の対象となる秘密情報については、かかる情報にアクセスできる関係者は制限されており、「秘密管理者」なる者を設けて秘密情報へのアクセスを認めることができるか疑問ではあるが、それはともかく、「例外規定(除外規定)」の趣旨を、秘密でない情報を管理して、秘密情報から「外す」規定であることを前提にして、秘密保持契約書の構造から逸脱した仕組みを設けようとしている。

 

 

V. 結語

 

秘密保持契約書で裁判で争われたものは少ない(あるいは、ない)と言われ、本格的に法律的な分析を行っている論考は少ない。また、秘密保持契約書に関する資料で、ネット上で利用可能なものについても、法律専門職以外の手になるものの方が多いようである。

 

米国では、かなり突っ込んだ網羅的な内容の論文も発表されている。[27]本稿は、それらを参考にしながら、わが国における「例外規定(除外規定)」の意味の理解が論理的になりたたない、誤ったものであるという点を検討した。

 

最後に、私の作成したものではないが、日本式の「例外規定(除外規定)」の内容理解で秘密保持契約書を英訳したものがあるので、紹介しておく。はたして、この英語版は make sense するものであろうか。

 

1.               Exceptions. The Recipient’s obligations under this Agreement with respect to any portion of the other party’s Confidential Information shall terminate when the Recipient can document that: (a) it was in the public domain at the time it was communicated to the Recipient by the other party; (b) it entered the public domain subsequent to the time it was communicated to the Recipient by the other party through no fault of the Recipient; (c) it was in the Recipient’s possession free of any obligation of confidence at the time it was communicated to the Recipient by the other party; (d) it was rightfully communicated to the Recipient free of any obligation of confidence subsequent to the time it was communicated to the Recipient by the other party; (e) it was communicated by the other party to an unaffiliated third party free of any obligation of confidence; or (f) it was not legended as Confidential Information of the Disclosing Party and if disclosed orally or visually, it was not identified as Confidential Information of the Disclosing Party at the time of such communication and followed by a writing within thirty (30) days of such disclosure. The restriction on disclosure will not apply to Confidential Information which is required to be disclosed by a court, government agency, or regulatory requirement, provided that the Recipient shall first notify the Disclosing Party of such disclosure requirement or order, use reasonable efforts to obtain confidential treatment or a protective order, and disclose only such portion of the Confidential Information as it is legally compelled to disclose.

2.               例外.  受領者が、本契約書に基づき他方当事者の秘密情報のあらゆる部分に関し負っている義務は、受領者が以下の事実を文書で証明できるときは終了するものとする。即ち、(a) 他方当事者が受領者に対しかかる情報を伝達した時点で、かかる情報が公知のものであったこと、(b) 他方当事者がかかる情報を受領者に伝達した時より後に、受領者の過失によることなく、かかる情報が公知のものとなったこと、(c) 他方当事者がかかる情報を受領者に伝達した時点で、受領者がかかる情報を秘密保持義務を負うことなく占有していたこと、(d) 他方当事者がかかる情報を受領者に伝達した時より後に、受領者に対してかかる情報が、秘密保持義務を負うことなく正当に知らされたこと、(e) 他方当事者が、かかる情報を、秘密保持義務を負わせることなく無関係の第三者に対し伝達したこと、又は (f) 開示当事者秘密情報であることの注意書きが行われていなかったこと、また口頭もしくは視認の方法で開示された場合には、かかる伝達が行われた時点で開示当事者秘密情報であることが明示されず、又はかかる開示から30日以内に書面が交付されなかったこと。開示の制限は、裁判所、政府機関又は規制当局の要求により秘密情報の開示が義務づけられる場合には適用されないものとする。但し、受領者は、かかる開示義務又は命令について開示当事者に先ず通知を行い、秘密保持の取扱もしくは保護命令を得るよう合理的な努力を払い、また法的に開示が強制される秘密情報の部分のみを開示することを条件とする。

 


 

付録 問題点整理のためのチャート

 

英語文献における「例外(除外)規定」と、日本における「例外規定(除外規定)」の意味内容の解説の概要を紹介するためのチャートを提供する。要点は、発想の方向が、真逆になっていること、そして日本における理解は誤っていることである。

 

 

[チャート1]英語版秘密保持契約書の例外規定(除外規定)の解説

 

 

除外規定

確認

秘密情報

公知情報

分離

秘密情報

秘密保持義務

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘密情報から公知情報は除外されることから、秘密保持義務は公知情報には適用されないことになる。したがって、受領当事者は、公知情報がパブリック・ドメインに存在する、誰でも利用できる情報として、利用することを妨げられない。

 


 

秘密保持義務

[チャート2]

 

 

 

日本語版秘密保持契約書の例外規定(除外規定)の解説

 

ここでも、「公知情報」を例にとる。

 

 

公知情報

秘密情報

公知情報

利用可能?

「秘密性」の喪失

秘密情報

 

公知情報

脱落

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報が公知となったことから「秘密性」を喪失し、「秘密情報」に含まれていた「公知情報」部分が「秘密情報」から脱落する。このことにより、「公知情報」部分には、秘密保持義務が適用されなくなる。そして、受領当事者は「公知情報」を利用できるようになる。

 

 



[1] 英語版で Exceptions とされているもの。

[2] 同じく英語版で Exclusions とされているもの。Exceptions Exclusions とは内容が同じであるので、互換的であることを示すため「例外規定(除外規定)」のようにここでは表記している。

[3] クラウドサイン ブログ「秘密保持契約書のチェックポイント」 https://www.cloudsign.jp/media/20170410-tips-for-drafting-01/

[4] 同上、注1。

[5] 例えば、第一法規株式会社「企業法務の基礎QA https://www.daiichihoki.co.jp/homu/homukomadoq10.html

[6] 弁護士法人クラフトマン「秘密保持契約(NDA)の主要規定のサンプルと解説」 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/it/index/it_nda/、同旨、秘密保持契約書の達人「秘密情報の例外」https://www.himituhojikeiyakusho.com/exception/ 等照。

[7] 英語版の independently であるが、independent from の「無関係に」という意味であろう。「独立して」とか、ましてや「独自に」-日本でいうとことの「独自の技術」というような-意味合いはない。

[8] 以下、「III. 英語圏における「例外規定(除外規定)」の意味の理解」の節で詳説する。

[9] わが国では、「定義された秘密情報からの例外規定(除外規定)」-定義除外規定-と「秘密保持義務からの例外規定(除外規定)」-義務除外規定-という区別がなされているが、後者の「秘密保持義務からの例外規定(除外規定)」は、いったんは秘密保持義務が適用されることを前提として、例外扱い(除外)するのであるから、そもそも適用されないとする英語圏の解釈を「らち外利用説」と呼ぶことにしよう。また、本稿の立場では、「秘密情報の定義の例外規定(除外規定)」という概念が存在する余地はなく、誤りであることになる。

[10] 弁護士法人直法律事務所 ベンチャースタートアップ 弁護士の部屋「NDA(秘密保持契約書)とは?締結のメリットと機密保持契約書との違い」は、「この例外条項は、開示された時点において受領当事者がすでに知っている情報を開示当事者から改めて受け取った場合に、その情報を秘密情報から除くためのものです。
受領当事者としては、そのような情報は、開示当事者が受領するまでは自由に開示・使用することができた情報であるから、受領後もその開示・使用を制限されるべきではありません」(下線、筆者。)https://nao-lawoffice.jp/venture-startup/contract-and-related-law/nda-checkpoint.php#toc_16 と、「除く」ことと「開示・使用を制限されない」ことを指摘しておられる。ただ、「開示・制限されない情報」が、「秘密情報から除」かれた情報であるなら、問題は残る。

 なお、ジェトロ(日本貿易振興機構)「秘密保持契約書の作成」は、例えば、いわゆる独自開発情報について、「受領者が開示者と同様の開発を独自で行っている場合に、開示者からの秘密情報に基づかないで独自開発した場合に、開示者から受領した秘密情報に制限されることが無いように、秘密情報から除かれる。」と述べている。

[11] 後述の「VI. 例外規定(除外規定)の意味の変質の原因とのその弊害」参照。

[12] 秘密保持義務を引き続き負うとしても、秘密保持義務を解除する旨の規定を設けることはできる。また、義務の存続(消滅)規定、受領した秘密情報の返却等の規定により、「受領者が過度な負担を強いられる」ことはないように思われる。

[13] 英語版と日本語版が「同じ」と言える根拠については、次節II参照。

[14] 私の「秘密情報は内容が秘密の情報ではない」等 https://www.watanabeinternationallaw.com/談話室/

[15] 予めお断りしておくが、「一般に流布している」というのは、「受領秘密情報除外説」による説明しか見当たらないと思われるので、そのように述べているに過ぎない。

[16] 本来であれば、網羅的に、たくさんの「対訳」を掲げれば、より説得力が増すと思われるが、ここでは、分かりやすい英語版の例文を掲げておく。

 

 

[17] 多くは、非開示契約書 (Non-disclosure Agreement) の日本語訳である。秘密保持契約書は、直訳的には Confidential Agreement であるが、いまわれわれが検討しているのは、Non-disclosure Agreement (NDA) に該当する。

[18] https://www.adamsdrafting.com/the-public-information-exception-to-the-definition-of-confidential-information/  なお、本文での紹介は、この記事の要約である。

 

[19] Jere M. Webb “A Practitioner’s Guide to Confidentiality Agreements” 同じく、本文の記述は、この論文の要約である。https://www.scribd.com/document/132769996/Confidentiality-Agreement-Guide

[20] この箇所が、わが国の「受領秘密情報除外説」の指向する秘密保持義務の「除外」と同じであるとは言えないであろう。「保護もしくは秘密として保持する義務を負わず」は、「使用することを妨げられない」根拠として述べられているように思われる。

[21] 英語版の independently であるが、independent from の「無関係に」という意味であろう。「独立して」とか、ましてや「独自に」-日本でいうとことの「独自の技術」というような-意味合いはない。

[22] 例えば、クラウドサイン「NDA(秘密保持契約書)経済産業省公式ひな形の解説」https://www.cloudsign.jp/media/20180409-ndameti/ で紹介されている「経済産業省公式ひな形」である。

[23] https://www.tms.org/pubs/journals/jom/matters/matters-9405.html

[24] https://gowlingwlg.com/en/insights-resources/articles/2023/distinction-confidential-information-know-how/

[25] ここで誤りと述べたのは、営業秘密 (trade secret) であることを「秘密保持契約書における秘密情報」であるための必要条件とする見解であり、営業秘密 (trade secret) を「秘密保持契約書における秘密情報」の中に含めうること(十分条件)は-存続期間を含めさまざまな困難な問題があるにしても-可能である。

[26] 経済産業省「秘密情報は大切な財産です~秘密情報の漏えい対策等について~」等、参照。

[27] Dell Charles “D. C.” Toedt III, On Contracts, Confidential information clauses — understand your NDA には、たくさんの米国における判例が引用されている。https://www.oncontracts.com/

 

秘密保持契約書の例外規定(除外規定)の意味.docx
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