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秘密保持契約書を理解しようとする....

 

弁護士 渡邉 明彦

(2019729 - ________

 

Confidentiality Agreement とか Non-Disclosure Agreement (NDA) は、秘密保持契約書、非開示契約書と呼ばれ、英文契約書の中でも、初心者向き、基本的な教材だと認識されています。私も、最初の頃、よく依頼され、その後「英文秘密保持契約書セミナー」もやったことがあります。

 

最近でも、月に2・3本くらい英文秘密保持契約書・非開示契約を「見てくれ」と頼まれ、依頼者側に立って、コメント、エディットをしています。

 

このような作業をしていて、「よく分からなかった」ところが、「かなり分かってきた」という感じになっていますが、その到達点は、ひょっとすると、一般的な(大方の)理解とは違っているかもしれません。

 

ややショッキングかもしれない、これらの結論を、12くらいのトピックに分かって検討してみたいと思います。12回と言っても、第1回が、いちばん大事で、回をおうごとに重要度は低くなっていきます。

 

第1回 「秘密情報 (Confidential Agreement)」とは何か?

 

秘密情報とは、「秘密保持義務」の箇所に規定されているとおり「秘密取り扱い」をすべき情報であって、内容が secret なものという含意はない。

 

秘密情報は、秘密取り扱いをすべきものとして指定されている情報である。(形式説)

 

 

秘密情報は、秘密保持契約書に「秘密情報」として定義されているもので、それ以上、詮索する必要がないようにも思われますが、「秘密情報」の「在り方」をきっちり把握しておくことが、すべての始まりになります。

 

「秘密保持義務」は(雇用契約の秘密保持条項は、少し違ってきますが)、

 

① 受け取った「秘密情報」を厳重に保管し、保護すること

 

② 「知る必要 (need-to-know)」のある一定の職員以外の利用に供さないこと

 

③ 「守秘義務契約書」で定めた「目的」以外に、「秘密情報」を利用しないこと

 

が中核となります(外にも、①~③に付随する義務が設けられます。また、雇用契約の秘密保持条項は「沈黙 (silence) を買う条項」と言われ、すこし違います)。

 

さて、このような「秘密保持義務負うのが「秘密情報」」であるとすると、「秘密情報」は内容(例:secretnon-public とかの内容からは定義てきず、「外形的に」確定される以外に、ないことになります。

 

 

例えば、

 

   

 

のように、「この封筒に入った書面」が「秘密情報」というように定義されることになります。

 

書面が「マンガ」であっても、「この封筒に入っている書面」を、①厳秘して保管し、②必要のある人以外に見せず、③目的外で使用しない、と約束すれば、秘密保持契約書が成立するというわけです。

 

このような解釈は、英語の Confidential 「内密」という意味に沿っていると思います。

 

Confidential Agreement を、内容に着目するかのように「機密情報」とするのが不適切であることも分かると思います。

 

「秘密取り扱いをすべき「秘密情報」」が、循環していると感じる方は、「秘密情報」という用語を捨てて、「本件情報」にすることもできます。英語でも、 the Information という表現を、Confidential Information に代えて使用するものも出てきていいます。

 

「本件情報 (Information)」が、「形式説」の延長線上にあるのは、お分かりいただけると思います。

 

「秘密情報」とは、「この封筒の中の書面」のように形式的に確定される情報で、これに秘密保持義務(①保管、②開示制限、③使用制限)が課されるもので(「形式説」)、内容がsecretであるとか、non-public であるとか(「内容説」)とは関係しない。(ただし、trade secret は別の話もありますので、項を分けて検討します。)


 

 

第2回 「秘密情報 (Confidential Agreement)」に当たらないことを定める条項の構造とは?

 

開示善に公知であった情報、開示後に受領者の過失によることなく公知となった情報、受領者が独自に開発した情報は、「秘密情報に当たらない」という規定が設けられますが、これは

 

① そのような秘密情報の「秘密保持義務」を解除するというより、

 

② 「公知であった情報」等の自由な利用が、「秘密保持義務」によって妨げられず、

 

③ 「公知であった情報」等を自由に利用することで、目的を達成できる、

 

と解釈すべでしょう。

 

たとえば、情報としては「同一の情報」が、「封筒の中」と、「特許公報の中」にあったとします。

 

「秘密情報に当たらない」条項から、

 

 

 

 

 

 

(利用可能な情報)

 

受領者は、(A)特許公報で公開されている技術を、守秘義務契約書にかかわらず、自由に利用できるが、(B)封筒に入っている書面を公開したり、閲覧制限なしの状態におくことはできない。

 

「秘密情報に当たらない情報」が存在したり、出現しても、それら外部の情報の利用に、守秘義務契約書の秘密保持規定が適用されないだけで、もともと受け取った(例:封筒の中の書面は、依然として①厳秘し、②利用制限し、③利用目的以外で使用しない、という義務は残ると解すべきではないでしょうか。

 

これは、例えば、上の例で、特許公報で公開されている技術が、「封筒の中の書面のコンテキストで持つ意味・異議が同一でない可能性があるので、それだけを切り離して、「守秘義務がなくなった」と早合点することはできないと思われます。

 

「秘密情報」が、公知の情報であったとしても、受領した「秘密情報」の守秘義務は存続する(引き続き厳重保管)。ただし、「公知の情報」が、「秘密情報」同じであっても、「秘密情報に当たらない」規定によって、この方を自由に利用できる。

 

これは、「秘密情報」を「内容」ではなく、「形式」的に画定する立場からは、「秘密情報」が公知であっても、公知となっても関係がないということからも、納得できると思います(形式説の帰結)。

 


 

 

第3回 秘密保持契約書の満了・終了後の存続期間が経過すると、「秘密情報」を公開できるのだろうか?

 

秘密保持契約書には、「秘密保持義務は、本契約書の満了・終了後も5年間継続する。」というような、「存続」条項が設けられるのが普通です。

 

では、その「5年」を経過すると、「秘密情報」を、自由に公開できる、あるいは公開しても契約違反にならないのでしょうか?

 

この問題は、「秘密情報の返却」規定といっしょに考える必要があります。

 

「秘密情報を満了・終了時に返却する」以上、ちゃんと義務を守っていれば(内緒に秘密情報のコピーをとっておく、等々のことをしていないかぎり)、5年経過後に開示できるような「秘密情報」は手許に残っていないはずです。

 

 

 

trade secret が「秘密情報」に入っていないかぎり(「封筒」に入っていないかぎり)、秘密保持義務の存続期間は3年、5年、7年というのが普通のようですが、その存続期間を経過して「秘密情報」を開示してトラブルになった、という話しはあまり聞きません。

 

それには、わけがあると思われます。

 

秘密保持契約書には、①何時でも、開示当事者は、受領当事者に対して「秘密情報」の返却を求めることができる、とか、②秘密保持契約が満了・終了した時点で、受領当事者は「秘密情報」を返却するか、廃棄して、破棄したことを証明しなければならない、という規定があります。(ここで、証明は、官公署に「証明」をお願いすると「○○の事実に相違ないことを証明する」というような場合の「証明」です。)

 

とすると、秘密保持契約が満了・終了すると、その時点で「秘密情報」(前の例では、封筒に入った書面と、おそらく「封筒」それ自体も)、受領当事者から開示当事者に返却されているはずです。

 

守秘義務が、①厳重な保管、②閲覧の制限、③目的外の使用の禁止、だと言いましたが、満了・終了後は、「秘密情報」が手許に存在しなくなるので、①~③の義務を履行する必要はなくなります。履行しようにも、できないことになっているはずです。

 

残るのは、"Residuals" means information retained in unaided memory by persons who have had access to the Confidential Information, including ideas, concepts, know-how or techniques contained therein.と言われる、何の手も借りずに頭の中に残った「記憶」だけになるはずです。

 

3年、5年、7年の意味は、「技術が陳腐化」する時間(公開しても意味がなくなる)、という解説もありあすが、「記憶が薄れる」時間とも言えるかもしれません。あるいは、[秘密情報の開示を受けた人(Representative 担当者)」が、会社からいなくなる、あるいは異動する時間かもしれません。

 

それは、ともかく、「秘密情報」の返却をしっかりやっていれば、3年、5年、7年の存続期間の満了時には、開示する情報が残っていないはずである、というのが、真実ではないでしょうか。したがって、存続期間の満了時に、鮮やかな記憶を喚起して「秘密情報」を公開する事態は、あり得ないと思われます。

 

あと、3年、5年、7年の存続期間については、一種の「出訴制限 (statute of limitation)」だという説明があり、これが、一番納得がいくと思います。3年、5年、7年を過ぎると、当該「秘密保持契約書」の義務違反を主張して訴えられない。裏からいうと、当該秘密保持契約に関係する文書を廃棄してもよい、と。

 

以上から、

 

存続期間経過後に、「秘密情報を開示してよい」ことにはならない(不可能)、ただし、存続期間経過後は、当該秘密保持契約に関する紛争は提起されないので、文書等を廃棄してもよいことになる。

 

存続期間の選択は、秘密情報、秘密保持契約の対象として事業・技術の陳腐化の度合い、話題性、「記憶の減衰」を考慮して、合理的な期間として、3年、5年、7年等が選択されるべきでしょう。

 

それから、「秘密情報」をできうる限り完璧に、返却しておくことは、両当事者の負担に軽減になると思われます。

 

以上から、存続期間経過後に、秘密情報を暴露(?)する人が現れない理由が分かるとともに、人並み外れた「記憶力」(!)を駆使して過去の「秘密情報」を漏らせば、企業の信用にかかわるので、このような形態の紛争が起こらないものと思われます。

 

「存続期間」は、きわめて説明が難しい問題ですが、合理的な解明が望まれます。