アクセスブレインセミナー 英文契約書読解力養成講座(第4期)-英文契約書と日本の契約書の意外な違いがもたらす、予期せぬトラブルを防ぐために-
英文契約書読解力養成講座(第4期)
-英文契約書と日本の契約書の意外な違いがもたらす、
予期せぬトラブルを防ぐために-
講師から一言:例えば、ここに、英文契約書と、その忠実な日本語訳があるとします。英文契約書を検討する際に、英語原文ではなく、日本語訳を見ながら問題点をピックアップして行っても問題は無いように見受けられます。英文契約書読解力養成講座の今回のテーマは、「英文契約書を、いかに忠実に日本語訳しても、英語版と日本語版は、背景となる契約法の仕組みが違うことから、まったく別物となっていることを認識する必要がある。」という視点から展開していきます。契約交渉で、意思疎通、相互理解がうまく行かず、不信感まで漂い始める。こんな危うい経験はないでしょうか。これまで、このようなディスコミニュケーションの原因は、日本人の語学力不足のせいにされてきました。英文で契約を締結したが、思わぬ不利を被ってしまった。このような出来事も、英語力の不足だけに起因するものでしょうか。英文契約書を理解するには、法律的な基礎知識が、前提として必要になることを、具体的な事例を中心にして解説して行きます。
英文契約書、そしてそれが作成される背景にある英米契約法の知識は、われわれが学んできた日本の契約法、また日本で使用されている契約書の各条項の成り立ちを学ぶことによって、はじめて理解できるものです。英米契約法の原理、システムを、われわれが既に学んできた原理、システムと同定、対比して学んで生きましょう。われわれが、本当に知っている、理解していると言える「ものの考え方」は、日本の民法・商行為法なのですから、これを活用しない手はありません。
われわれが暗黙の前提としている日本の民法・商行為法と、英米契約法が違っている点を確認できれば、英文契約書に書かれていない、いやもっと正確には「暗黙のうちに記述されている」原理・原則との違いを認識できるようになれば、「英語を日本語に移す」だけでは、法律実務に携わる者として、不安を感じられるようになるかもしれません。
英文契約書の行間を読むことによって、英文契約書に書かれていることを正確に把握し、契約書の内容について建設的な討議を相手方と交わすことができるようになります。
「英文契約書を、鏡のように日本語訳したとしても、両者は同じものとはならない。」
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1.英米契約法上、契約上の義務は「厳格責任」、「絶対責任」
l 英米の契約責任は、strict liability
l 「帰責事由が無いときは、債務不履行責任を負わない」というわれわれの発想と、正反対のところから出発する
l 英米法準拠の契約を結んでいると、履行を怠った場合、原理原則としては「帰責事由の不存在」を持ち出すのは筋違いになる
l 「厳格責任」、「絶対責任」を免れるための契約書上の条項の必要性(わが国での「不必要性」)
- Ø 「不可抗力(Force Majeure)」条項-無用の長物ではない
ü 日本の契約書には、なぜ「不可抗力」条項がないのか
- Ø best efforts, reasonable efforts, commercially reasonable efforts 条項-なぜ、英米の弁護士は熱心にこの種のコメントを書き加えるか
ü best efforts 条項の意味が、日本人にピンとこないわけ
l 「契約違反」と「債務不履行」の法律要件の違い
- Ø 契約上の義務の履行を怠った場合の言い訳に差がでるか
2.英米契約法では、義務の履行はなかなか「不能」にならない
l 「厳格責任」、「絶対責任」から出てくる原始的不能の排除
- Ø 約束した以上、履行する義務がある
l いわゆる「原始的不能」や、「契約締結上の過失」は、英米契約法には無縁
- Ø 教室設例の、契約締結時に家屋が焼失していた場合
ü 契約は不成立か
ü この問題は、やや「肩すかし」
l 日本の不能論を前提とした、「危険負担」の問題の英米契約法上の処理
l 「契約違反 (Breach of Contract)」と「債務不履行」
l Frustrationの法理
- Ø 英米契約法上、後発的な不能で履行責任を免れる場合
3.契約上の義務の履行
l 契約上の義務は、当事者が契約上の義務を履行しやすいように導いている
- Ø Duty to Co-operate(協力義務)
- Ø Informational Duty(情報義務)
ü 英文契約書に書かれている当事者の義務を
p 当事者間の履行の先後関係
p 問い合わせたり、答えたり
という形で、「整理」できると考える
⇒ 英文契約書の条項を、このような視点から整理して並べてみる
l 「危険(risk)」の移転と契約違反との関係
- Ø 「危険の移転」と「所有権の移転」
l 契約違反と「危険の移転」との関係
4.契約違反とその責任
l 英国法のWarranty/Conditionの2分論
- Ø この2分論は、歴史的に有名
l Fundamental Breach of Contract
l Events of Default条項の仕組み
- Ø 契約解除事由を、契約書にきっちり書けるか
l 「解除」されると
- Ø 契約解除の「効果」は、自明ではない
ü 「解除」しても、損害賠償請求はできるか
ü 遡及するのか、巻き戻すのか
l 契約上の作為・不作為義務を強制実現させることができるか
- Ø コモンロー上の金銭賠償の原則
- Ø 特定履行の求めが認められる例外(英米法と大陸法の著名な差異)
ü 「例外だが、重要」
ü 衡平法上の要件と特定履行
ü 特定履行について契約書で約定することの意味
l 責任制限条項
- Ø 英米の契約書中に見られる「責任制限条項」
ü なぜ、日本の契約書には無いのか
ü そもそも、賠償責任を負う範囲は自明か
5.英米契約法の周辺部分の難問
l 相殺を巡る法制の差異の大きさ
- Ø 契約書中の「相殺」と相殺類似の制度
l Indemnity とは何か
- Ø 当事者間の関係か、対第三者との関係か
l Subrogation
- Ø 「代位」の効果と「代位」の制限
l Entire Agreement(完全なる合意)条項の有効性
- Ø 「完全なる合意」条項の有効性は、文言(「額面」)どおり受け取っていいのか
6.質疑・応答
講師略歴 1952年(岡山県)生まれ。 法学士(一橋大学)、法学修士(京都大学)、LL.M. (Pennsylvania大学)、同大学ロースクール特別研究生、京都大学博士課程単位取得退学。国際取引法、商取引法、専攻。富田・金澤、三井安田、ブレークモア法律事務所等を経て留学後独立。長年にわたり、ソフトウェアライセンス契約、パテントライセンス契約、技術提携契約、戦略的提携契約等の締結に携わる。テクノロジー・金融・不動産ファイナンスを三つの柱とする渡邉国際法律事務所を開設。英文契約書のレビュー、日本語・英語版の契約書の作成、知的財産権分野における渉外訴訟を中心に業務を行っている。ハイテクク分野における先端技術と法律問題が交錯する領域に興味をもち、法律の動向のみならず技術的な知識のキャッチアップに努めている。また、これまで不動産ファイナンス、E-commerceと関連して運輸・倉庫業務(3PL)にも、長年、携わってきている他、最近では、自然言語処理、人工知能、バイオテクノロジー分野における知的所有権に関連する業務も行っている。。同事務所代表弁護士。 |